看護部 茂原信子 土屋恵子
【目的】
嚥下障害により回復期病棟入院後も経管栄養を行う患者に対して、経口摂取を再開するために入院時から経口摂取の可否を予測して嚥下リハビリを行う必要がある。しかし、回復期病棟における経口摂取の可否についての予測式の報告は少ない。そのため、回復期病棟入院時に経管栄養を実施している患者の、経口摂取再開の可否を疾患や身体、認知機能、血液データの値などから関連を検討し予測式を考案し、早期から適切な嚥下リハを行うための看護介入の示唆を得たいと考えた。
【対象】
2013年7月から2018年12月までに、A回復期病棟において入院時経管栄養を行っていた脳血管障害・外傷による脳損傷患者109名。
【方法】
カルテから調査項目を抽出し後方視的に調査した。解析方法:退院時における経口摂取群と経管栄養継続群の2群に分類し、年齢・FIM運動・認知の各項目、Alb値、入院期間をWilcoxonの順位和検定で分析した。有意水準は危険率5%未満とした。有意差を認めた項目についてLogistic回帰分析を行った。
研究の実施にあたりセンター倫理委員会の承認を得た。
【結果】
経口群 n=34(人) |
経管群 n=70(人) |
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性別 |
男性 27(人) |
男性 44(人) |
女性 12(人) |
女性 26(人) |
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年齢 |
64 (55-70)(才) |
78 (69-84)(才) |
疾患 |
脳梗塞 13 |
脳梗塞 31 |
脳出血 25 |
脳出血 35 |
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外傷性脳損傷 1 |
外傷性脳損傷 4 |
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入院期間 |
174 (149-179)(日) |
147 (117-173)(日) |
Wilcoxon順位和検定分析の結果、有意差を認めた項目は、年齢、入院期間、FIM:整容、更衣上、移乗FIM認知項目:理解、表出、社会的交流、問題解決、記憶であった。
回帰式目的変数を経口摂取としたLogistic回帰分析により年齢、FIM認知項目:表出が選択された。的中率は74.3%であった。
【考察】
年齢において2群間の有意差を認めた。加齢により歯牙の欠損や唾液分泌量の低下、嚥下反射惹起の遅延など嚥下機能は低下する。研究対象者は、回復期まで嚥下障害が残存した重度の嚥下障害であることに加え、加齢による嚥下機能の低下が、経口摂取再開の可否に影響したと考える。さらに、発症後急性期病院での入院を経て回復期病棟に入院するまで経管栄養であったことから嚥下関連筋の廃用があることが予測される。予備力の低い高齢者では、急性期治療による安静臥床からサルコペニアを発症しやすい。このことから、高齢患者に対する早期からの適切な嚥下リハの重要性は大きいといえる。
入院期間において2群間の有意差を認めた。経口群における中央値174(149-179)経管群中央値147(117-173)経管群で入院期間が短かったのは、対象者の中に全身状態が不安定で早期に急性期病院へ転院した事例や、リハビリの効果が期待できずに他施設への転院した事例が含まれていることが要因と考える。
本研究において、Alb値で2群間の有意差を認めなかった。高山らは、回復期病棟において、経管栄養を行っている患者では63.4%に栄養障害認められたと報告している。本研究の対象者においても、経口群における中央値3.3(2.4-4.3)経管群における中央値3.3(2.1-3.9)と両群とも入院時にAlbが低値であった。先行研究において、栄養状態が嚥下障害の改善に関連することが明らかとされているが今回、有意差を認めなかった要因として、経口群、経管群いずれも入院時のAlb値が低値であったためと考えられる。また、Alb値は体内の水分量や年齢により値が変動することから、Alb値単独での評価は適切ではなかったと考えられ、今後の検討課題といえる。 運動項目では、整容、更衣上、移乗の3項目で2群間の有意差を認めた。嚥下機能に影響する身体機能として、頚部の動きや体幹の安定性が大きく関与するとされる。整容、更衣上の動作はともに体幹・座位姿勢の安定性が必要とされることから有意差を生じたと推測される。
FIM認知項目では、5項目すべてに有意差を認めた。嚥下反射の惹起には、覚醒状態にあるが重要でありさらに、嚥下リハビリを実施するうえで理解や表出といったコミュニケーション能力は重要であると考える。
【結論】
回復期病棟における経管栄養患者が経口摂取再開の予測式として、年齢、FIM認知項目:表出が選択された。的中率は74.3%であった。
本研究により、入院時に看護師が得る身体機能、認知機能のデータから経口摂取の可否を予測することが可能であることが明らかとなった。経口摂取の再開が可能であると予測される患者には、早期から摂食嚥下療法や身体機能の向上を目指した看護を行うとともに、経口摂取が困難と予想される患者に対しても、認知機能の賦活や姿勢の安定を目指した介入が必要と考える。
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